詩文集「あかね」第二集


 
 
詩文集「あかね」第二集
発刊にあたって

あかね会代表 鳴 海 幸 保

人は一人で生きられないと言う。そうだろうか!
部屋のスミに身をかがめ、外の世界に目をつむり、耳をふさぎ口さえもふさいで、ただ両親の盲愛にひとすじの生きる望みをかけている・・・・・・そんな姿が私達筋ジスの人達のすべてなのでは・・・・・・
いつであったか友達がふともらしたこの言葉にリツゼンとした。何も知らないのだ! まったく何もかも知らないのだ!
あのいきいきとした澄んだ目、生きるために全力を尽くしている小さな体、いつ会っても明るい笑い声、こんな子供たちのすべてを今心から知って欲しいと思う。
苛酷な人生に直面させられながら全力でぶつかり、ハネ飛ばされ、倒れ、そしてそれを乗り越え、又ぶつかっていく。そんな姿を、そんないじらしい彼等を! 知って欲しいと思う。

《目次》

(札幌市)川口智博
・心の海
・無題
・灰色の朝
・雨の街

・白いページ  岩崎典彦
・夢の中の出来事の様で
・メッセージ
・限り

・『恋』  中原えみ子
・めぐり会い
・遠くへ行きたい

・青いハートのブローチ  八島絹代

・コスモスの詩  吉鶴みゆき(十一才)

・あなたからの手紙  佐藤和江

・僕の生様  野田嘉之

・つかれた  山本晃弘
・せいしょ

・ぜいたくと足  押見一彦

・窓から四季を  城所輝夫
・無題

・斜陽なる心情  大野大次郎(四十九年死亡)
・己のうちなる孤独

・母ちゃんとバラのうた  平野一雄
・期待
・身障者

・ぼくと牛  若林隆一(小三)

・野球  中村久志
・俳句

・俳句  林 譲司

・なまけもののおひさまたち  小柳徹弥

・かきがり  池上雄二(小五)

・筋ジス八雲療養所見学と札幌市内患者訪問  鳴海幸保

・第一回 あかね会 大運動会(画像)
・緊張した選手宣誓  佐藤和広
・運動会
・あかね会 運動会
・運動会に参加して
・われら仲間

・編集後記
・画像




☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



(札幌市)川 口 智 博

心の海

時が流れていく
雲の流れにそって
同じ速さで
流れていく
その昔
空は海だった
人は
そこで生まれ
そこへ帰っていく
僕たちの体の中に
涙があるのは
そのためだ

はやく
心の海へ帰りたい
君のいる所へ
僕たちの同化できる
唯一の
深みの中へ





無題

僕は夢織人
この
幸せに満ちた
緑の大地に
ふりそそぐ雨のように
夢をはぐくみ
朝の
にじんだ光にも似た
風のない風景を築く

かつて
すべてがそうだったように
無から
なにもかもが生まれ出して
愛をふくらませたように
なにかが
大きくなっていく

ゆめをいっぱいつめた
ガラスの箱を一つ
大地におとすと
何かが光ったきり
言葉がふりまかれて
すぐにとけてしまった





灰色の朝

やさしい目をした
水色の馬にのって
天使たちは
悲しみに満ちた空に
銀の矢を射る

天使たちの朝が来る
それは少女への
ささやかなおくりもの
たとえば
絵文様の街の家並にも生まれて
ベッドのある部屋の窓を
おとずれる

それは天使たちの
夢のつづき
潮風のようにささやきながら
世界をつつもうとする

朝をよびおこす
鐘をならして去っていく
そんな天使たちの毎日





雨の街

ガラスの雨が
街をぬらす
灰色に
色どられた
悲しみの世界
ガラスの雨は
洗礼のように降り注ぐ

雨はガラスのシロフォン
ソーダ水のような
歌をかなで
人々の心を
あわくにじませる


僕の大好きな
やさしい
ガラスの雨

ピンクの
長ぐつをはいた少女が
スキップして
歩道を歩いていく

レンズのむこうの
なごやかな世界



目次に戻る
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


白いページ

岩 崎 典 彦

私の日記のページには
日付けと毎日の天気だけしか書いていない
ほかに書く事がなにもないから
若さを燃やす恋もない
青春を賭けるものもない
遊びも仕事もなにもかも
青春と言う言葉が恨しい

私の日記には書く文字がないんです
空白の時の中で描いた絵を書いたって
涙で描いた虚白の夢を書いたって
しかたがあるまいし
私が生きた証しに白いページを残します





夢の中の出来事の様で

病名を聞かされて
走れなくなって
いつか死が来ると悟って
友達と学校に別離を言って
這えなくなって
寝返りが出来なくなって
今この文字を書いていることが
夢の中の事の様で
何年か前の健康な頃が
夢であった様に
今では健康が夢である様に
不自由な体が夢であってほしい

夢の中の模索であっても
いつか見た夢が夢でない様に
想い出が虚しい想い出ではない様に
夢の中の出来事であってほしい
いつか明ける夜明けの様に





メッセージ

ここに太陽の様に
心の暖かい人々がいる
心の暖かい人々が手を結び
心と心を通じ合いながら
ひとりでも多くの人と理解し合い
太陽よりも大らかで
暖かい集団を作りましょう





限り

地球壊滅の時まで
空が破け<
海がせり上がるのを
地球の最後の姿を
見届けるまで生きてみたい

これが俺の
〝生〟への執着だ


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



中 原 えみ子

私恋をしました なんて言ったら
きっとみんな笑うでしょうね
でも私の恋はただのあこがれ
その人の姿を見かけただけで胸がときめいて
ましておしゃべりでも出来ようものなら
その日一日幸福なんです
だからお願いです
一言でもいいから声をかけて下さい
いえ それがぜいたくというなら
ほんの少しほほえんでくれるだけでいいんです
ほんの少し・・・・・・




めぐり会い

人と人がめぐり会い
何か通じ合うものがあったとき
胸の中には波のようにおしよせてくるものがある
ああ! 生きていてよかったなどと
大げさかもしれないけれど
ウソのない真の気持
出会い そうかもしれない
これがほんとうの出会いかもしれない
虚飾も見栄もこれっぽちもない
わたしの姿
心の奥の秘密の扉もあけ放し・・・・・・
そこにはすばらしい何かがある

人知れず夢をみて
人知れずこわれていく
そのくり返しの中で
わたしは何をみつめているのだろうか


遠くへ行きたい

小さな小さな私の部屋に
一人でポツンとしていたら
お日さまさんが部屋いっぱいに
やさしい光をおくりこんでくれました
そしたらパッと明るくなりました
足の先から頭のてっぺんまで
一輪のバラを小さなコップにさしました
そうしたら数多くの喜びをみんなに与えてくれました
そう私のこころにも
一輪のバラを小さなコップにさしました
そうしたらお部屋の中が明るくなりました
そう私のこころの中までも

十八才 何て中途半端な年頃なんでしょう
もどりたいのです
何にも知らなかったあの頃へ
むじゃきな顔でほほえみたいのです
十八才 疲れたのです

誰も知った人がいない遠い所へ行きたい
車イスから離れて自由になりたい
何も考えないで ただぼんやりとしていたい
おいしい空気と広々とした原っぱ
わたしは寝ころんで空をながめているのです
思いっきりからだを伸して
ただ空をながめているのです

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


青いハートのブローチ

八 島 絹 代

私は夢をみました
あなたが
さようならを言ったのです
私が理由をきいても
ただ下を向いて
〝ごめんよ〟とつぶやくだけでした
そしてけむりのように
私のまえから消えてしまったのでした
あとに残された私の目には
涙だけが光っていました

ここで私は目がさめました
ピンクのカーテンを引いた窓からは
明るい朝の日の光がさしていました
なんて変な夢をみたんでしょうと
私は思いました
いつもあんなにやさしいあなたが
さよならなんて言うわけもありません
そんなことを思いながら
今日も私はあなたのために
おしゃれをして
あなたのもとへ行くのです
きらきら光る若い情熱は
あなたのためにもえ尽くしました

ある日あなたは私に
小さな箱をくれました
水色のつつみ紙に
黄色のリボンがむすんである
かわいい箱でした
〝家に帰ってからあけてくれ〟と
あなたが言ったので
私はさようならのキスをして
あなたと別れました
もし その時
私がもう少し大人だったら
あなたの後姿に
もう会えないような予感を
感じたのかもしれません
感じたのかもしれません
でも その時私は十五
あんな夢が現実になるとは
思ってもいませんでした
家に帰りその箱をあけてみると
中から青いハートのブローチと
〝ぼくはある事情があって
 この町から出て行くことになった
 ゆるしてくれ〟
と 書いてある小さな紙が
入っていたのでした



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



コスモスの詩

吉 鶴 みゆき
(十一才)


子供たちがいつも遊ぶ原っぱは
もう秋もよう
すすきが銀色に輝いているその中に
一輪のうすもも色の小さなコスモスが咲いている
そして いつも子供たちが帰ってしまうと
もうすぐ沈む太陽に
「太陽さん いつも子供たちを照らしてくれて
ありがとう」っていうの
そうこのコスモスはとてもさみしがり屋
いつもすすきのしげみから子供たちをながめている

わたしはそんなコスモスが好き
さみしがり屋のコスモスが好き
いじっぱり そんなコスモスが好き





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



あなたからの手紙

佐 藤 和 江

あなたからの手紙
どのくらい燃やせば
悲しみがなくなるのでしょう
あなたからの手紙
みんなあなたのやさしさばかり
今はもういないあなた
天国からは
郵便屋さんが来てくれないの

あなたに知らせたいことが
たくさんあるのに

あなたからの手紙
私とあなたの初恋日記
あなたからの手紙
まばゆい目もくらみそうな
たのしい青春の中
今は遠い空の
星になった人
年に一度でいいから
おりひめとひこぼしのように
あなたと会いたい
そしたら
一年分の手紙を渡せるのに

あなたからの手紙
どのくらい燃やせば
悲しみがなくなるのかしら
あなたからの手紙
全部燃やしたら
私の心はカラッポ
悲しみも美しさも
何もない心
今はひとりぼっち・・・・・・





☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



僕の生様

野 田 嘉 之

小学生の頃のように
歩いてみたいと夢みつつ
入院生活したけれど
何のことはない
わが体
悪くなるのが積の山 (*)

あいそうつかして退院し
我が家で手足伸したら
何のことはない
もう一年と八ヶ月
月日のたつのは早いもの
「アッ」という間に日が暮れる

グータラしてては駄目だから
テレビで講義を聞きながら
好きな本など
読みふけり
竹馬の友と将棋を指す
その一時の楽しさは
グータラ人生 味がある


(*原文通り)



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



つかれた

山 本 晃 弘

心身ともにつかれた
学校で友達に悪口を言われ
がまんしたら
心がつかれた
勉強がむずかしいので
頭がつかれた
とにかくぼくはつかれた
ぼくは休むために
とこに入った
すると
窓から青空がみえた



せいしょ

せいしょは
ぼくの大事な書物
かなしい時はなぐさめを
悪いことをした時は
愛のムチを
はらが立った時は
たえる力を与えてくれる
せいしょは
ぼくの大事な書物



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



窓から四季を

城 所 輝 夫

小さな窓から
春を見つけた
あたたかい風
心あたたかく
木々のめざめが

小さな窓から
ケヤキの木が見える
夏の日ざしがギラギラ
ケヤキの葉に
まぶしくキラキラ

小さな窓から
色づいたケヤキが
夕日に輝いた
風が吹き
葉が散っていった

小さな窓を明けると
北風がふきぬけてくる
体のそこまでしみてくる
雪が窓の外に
降ってきた





無題

消しゴムで消しても
通りすぎた十六年間は
うめつくされている
マジックで書いたみたいに
消しても消えない
いや 破り捨てても
燃やし尽くしても
消やしない
そんな人生を
自分なりにつくり上げて行きたい
消しても消しても消えない
そんな人生を・・・・・・


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


斜陽なる心情

大 野 大次郎
(四十九年死亡)

心に食い刺さる何者かが
私に刃をかざして突き進む
否応なしに心に食い刺さる
食い刺さった何者を拭いはぎとり
はぎとっては切り刻む
だが それは一時の気安めに過ぎない
次から次へと
私の心を否応なく捕え押えつけられて
巣を宿されてしまう

心に食い刺さる何者かが私の心に
強く烈しく
猛烈な痛さをもって突き刺さり住みこまれてしまう
悩み多き青春の
通り抜けなければならない道程なのか・・・・・・

心に食い刺さる何者?
困惑 苦悩 思惑
そして痛さというものは食い刺さるもの
心にいつまでも限りなく
嗚呼・・・・・・つづくのであろうか



己のうちなる孤独

孤独を求めようとする
いつでも孤独になろうとする
孤独というものを愛し
孤独というものを模索しようとする
それを限りなく掴みとろうとする
だが 時として
つくづく疎外感というものを味わってしまう
孤独というものは好ましいものである
しかし 孤独は時として
己の破滅につながってしまう
障害者なるが故にどうしても孤独にこもりたがる
人々との交わりを嫌い
家族間だけの交わりを求めてしまう
その中に逃げようとしてしまう
だが その内輪であっても
楽しき暖かき団欒の中にあっても
己は時にフッと思ってしまう
己は一人やはり孤独なんだ
淋しさというものに浸され
いつのまにか悲しさにかこわれてしまう
孤独な己として
心の奥底から
悩みをうちあけ話し合える友人
そしてボランティア的友は
スバラシキ友人は多くいる
だが淋しきことに
今日のボランティアには
貴兄 貴姉 そして友人という人々は一人もいない
本当にその中にあって孤独
やるせない つまらない どうしようもない
悲愴な疎外感というものをひしひしと味わう
だが だがである
これは己が引込み思案
だらしなさで孤独を求め
いつまでも孤独を愛し好もうとする
その表われが
破滅崩壊的な結果に自らをみちびいたと思う
これらみな自問自答 と同時に己をしかるありさま
孤独にはなりたくなvい
時として孤独を求めたい
だが 心に想う
一人孤独はもうごめん
コミュニティを求め
孤独を己から消滅させ
大切な交わりというものを把握し掴みとる
より人間として
よりヒューマニスティックを求め
発展的変革をなし
それらが新たに抱懐をちかう
孤独を愛し好む人間は
とらえどころのない
つきあいにくい人間であろうか



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



母ちゃんとバラのうた

平 野 一 雄

  となりの女(ひと)からもらったバラが咲きました。ぶきような母ちゃんが咲かせたのです。枯れかかった時もあったけど、三年越しでやっと咲いたのです。
  バラにも母ちゃんの心が通じたのかピンクのバラ一輪ニッコリと咲きました。少しニッコリしすぎるけど母ちゃんが咲かせたのです。となりの女(ひと)もほほえみます。そんな母ちゃんとバラを見て僕は思いました。この僕もいろんなひとからいろんな種をもらっている事を、生命の庭にあるいろんな花の種を、知らず知らずに育てられている事を、そして大切なのはそのあたたかい思いやりと言う肥料をエネルギーとしてたくわえる事なんですね。
  そして茎、葉、花は自分の生命力で作り咲かすものなんですね。決してそれは他の人から作ってもらう事の出来ないものなのですね。人間も同じみたいですね。
  人間と云う一つの種がつらい苦しい、そして孤独と言う泥をかぶり、暗い土の中で自己と言う役割の花を咲かそうとめざめた時、その生命力は土をやぶり、やがて人々を動かし、人間が求める幸せと言う花を咲かせる力だと思い始めました。
  僕も頑張りたい! 生命のある限り



期待

決意と自覚を一本の毛糸にたくして
期待と願いをこめて編む
このセーター ワンピース
そして
可愛いいこの小さなパンタロンスーツに (*)
笑顔が生まれるかな
この生命の鼓動
わかってもらえるかな
うれしい輪が広がるかな





僕はいつも
おびえていた
僕が話す事やする事を
君に笑われているようで
そして
いつも思っていたんだ
君のように
かっこうよくうまくやれたら・・・・・・と
そんな僕の気持を
ある月夜に
思いきって君に言ったら
―君の方だろう 僕をけいべつしていたのは―



身障者

僕は身障者
生まれた時から弱く
今では
歩くこともできなくなりました
だからと言って
すねて なげいているのではありません
たしかに
いろんな事がありました
でも よい勉強ができました
生きる尊さ
生命の偉大さ不思議さが
わかりかけてきました
身体障害者一級
もうなれました
ふりかえってながめる人にも
笑顔でこたえて
心の中は青空です
時々くもりますが
それは動いている事
生きている事です
そして明日のよりよい
青空のためです



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ぼくと牛

若 林 隆 一
(小三)

中央のうぎょう高校に
えん足に行った
牛がいっぱいならんでいて
プーンと牛のにおいがした
子牛に手をさし出すと
ペロリとなめられた
「くすぐったいなあ」と思った
下がザラザラしていた
よだれが手についたので
ズボンでふいた
「とてもかわいいなあ」と思った



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



野球

中 村 久 志

プロ野球の選手になりたいな
王選手みたいなホームランを打ちたいな
それにピッチャーもやりたいな
そしてエースになりたいな
すごい選手になりたいな
そして世界一になりたいな
夢でもいいからなりたいな



俳句

運動会
  親がはりきり
   綱をひき

スポーツも
  訓練になる
   筋ジス児

ハァハァと
  はく息あらく
   山のぼり

子を背負い
  その重たさに
   草履ぬげ



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



俳句


林  譲 司

初雪を
  たのしみにまつ
         車椅子

秋の雨
  ひとりるすばん
       ラジオきく

雪の中
  歩いてみたい
         すべりたい


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

なまけもののおひさまたち

小 柳 徹 弥

  夜、空にたくさん光っているあの「星」というのはいったい何なのかしら、とユカはいつもふしぎに思っていました。
  ある日、ユカは先生にあの星というのは何なのですか?と聞いてみました。「あの星の光はおひさまと同じものなのだよ。」と先生は教えてくださいましたけどユカはまだふしぎです。おひさまは昼間たったひとつであんなに明るくみんなを照らしてくださいますけど、あの星というのはたくさんあるのにちっとも明るくも暖かくもないのですから、だからあのたくさんの星たちはきっとなまけもののおひさまなのだわってユカはそう考えました。なまけもののいじわるなおひさま、それがあの星たちなのだと思いました。
  ある日曜日、ユカは町からちょっとはずれたところにあるおばあちゃんのおうちにひとりで遊びに行きました。おばあちゃんのおうちにはひさしぶりに行ったので、おばあちゃんはとても喜んで、いろいろごちそうを作ってくださったりおもしろいお話しをしてくださいました。でもそうしているうちにすっかりおそくなって外はまっくらになってしまいました。ユカはこのままおばあちゃんのおうちに泊まってゆきたかったし、おばあちゃんもそうすすめてくださいました。でも明日は学校へ行かなければなりませんし、宿題がまだ半分やりかけでユカの部屋の机で待っています。ユカは宿題をにくらしく思いましたけれどやはりやらなくてはならないので家に帰ることにしました。それに明るい町まではとちゅう広い野原を走っていけばすぐに行けます。ユカは「さようなら、また来るわ。」とおばあちゃんに言っておうちを出ました。
  外はもうほんとうにまっくらでした。空にはあのなまけもののいじわるなおひさまたちがのんびり光っています。でもちっとも明るくありません。
  ユカは野原をいっしょうけんめい走りました。走っていると遠くで犬がほえたり、むこうの森の木々がザワザワと風でさわぎます。ユカはほんとうに心ぼそくなってしまって泣きたくなりました。でもここで泣いたら女の子の恥ユカの恥です。だからユカは歯をくいしばってもっともっと早く走ろうとしました。でもその時ユカは石につまずいてころんでしまいました。ユカはなにしろとても心ぼそかったのですぐにおきあがってまた走ろうとしました。その時ふと空を見上げると、なまけもののおひさまたちは
今なんだかユカをじっと見つめてくれているみたいな気がしました。「あのたくさんのなまけもののおひさまたちは、ちっとも明るくわたしを照らしてくれないけれど、でもあの星がなかったらもっともっと空はくらいし、わたしももっともっとこわくて心ぼそいかも知れないわ。きっとあの星は私をみていてくださるのだし、わたしはちっともこわがることなんかないのだわ。あの星はなまけものだけど、いじわるなんかじゃなくて
やさしいおひさまなのね。」そうユカは考えました。するとほんとうにユカはちっともこわくなくなりましたし、あのなまけもののおひさまもなんだかさっきより明るく光っているような気がしました。
  ユカはなまけもののおひさまたちにありがとうをいって、きょうおばあちゃんから聞いたおもしろいお話しを思いだしながら帰っていきました。なまけもののおひさまたちは
いつまでもユカのあとをキラキラ光りながらついて行きました。




詩文集「あかね」の表紙へ