2021.03.06 |
ヒサカキが咲いた。 平成28年(2016)3月18日、私たちは伊勢神宮にいた。 お伊勢参りは何度もしていた。ただ、いつも思いつきのように来ていたので、何月に来たかの記憶がなかった。 私が72歳の年男の年(午年、平成26年,2014年)、毎年月をずらして、二人でお伊勢参りすると決めた。つまりその年は1月に、翌年は2月に、というように参拝の月をずらしていく。次の午年、2026年、私が84歳の年は、再び1月のお伊勢参りになる。 その実現をまったく疑わなかった。 2016年は3月の参拝だった。妻は前年、予期せぬ大手術を受けた。しかし年末に退院し顔色もよく、新年早々私の鼠径ヘルニア手術のときは、いいというのに東京の病院までつきそってくれた。(私の勤務先近くで、歩いて通える距離から私はいつもその病院を使っていた) 私たちは「逃れた(死から)」と思った。思えばこの正月から5月までの5ヶ月間が、私の人生の絶頂だった。毎日毎日が、あれほど幸福だったことはない。 2016年3月は、そういう時だった。 神宮・外宮の境内に、かわいい花が咲いていた。 それが「ヒサカキ」だった。 6月に絶望が来た。 妻には、わかっていたのかもしれない。冷静だった。「これが私に与えられた寿命だから」、そして、「十分な人生だった。幸せだった」と言った。 妻は、自分の墓には「ヒサカキ」と「白の紫蘭」を植えて欲しいと言った。紫蘭は「白いのを」と指示した。私はその通りにした。 第1土曜日は毎月、嫂と墓参りすることになっている。 いつもの通りお墓へ行くと、ヒサカキは花をつけ、紫蘭は芽を出していた。 妻は、「強い花だから」と、紫蘭を選んだ理由を語った。 普段水やりもない環境で、強靱に生きている。そして咲く花は、やさしい。 |
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